※本記事は2019年6月7日に投稿されたものとなります
白川郷ヒト大学では、これまでいくつかの大学と連携して、ワークショップや講座の開催、フィールドワークのコーディネートなどを行ってきました。
様々な形で授業やゼミ活動のお手伝いをさせて頂く中で、私たち自身も新たに学ばせてもらうことや気づかせてもらうことが沢山ありました。
また今年度からは、新たな挑戦として、これまでのような短期的な滞在プログラムだけではなく、中・長期的な滞在を通して、学生が白川村での学びを深められるような環境を作ろうと取り組んでいます。
そこで、まずは私たちが現在連携している大学(または学部や研究室)が、日頃どういった学びを展開しているのか、どんな先生がどんな思いで地域や学生に向き合っているのか、ご紹介していくことにしました。
もう20年以上も白川村に関わり続けている黒田先生が、どんな思いで研究に取り組んでいるのか、実践的な学びを大切にしている理由はなんなのか、たっぷり聞かせて頂こうと思います。
白川村での活動、地域での学びに興味がある学生さんには、ぜひ最後まで読んで頂ければ嬉しいです。
「誰かのために自分の学びを役立てる」という経験を積もう。学ぶ喜びは、人に必要とされて初めて実感できるものだと思うから。
そう思われることが多いんだけど、実際の学びの中身は、とても柔軟なんです。
先生たちの専門性も1人1人全然違っていて個性豊かなので、1つの専攻の中で色んなテーマについて学べる点も魅力だと思います。
学生さんも「世界遺産や文化遺産にものすごく興味がある!」という方ばかりではく、色んな興味を持った方がいて、まだ専門性が見つかっていなくて自分のテーマを探るために入学してきたという方もいるよ。
例えば、私は景観の面から文化財についての研究をしているんだけど、隣の研究室では「仏教美術」といって中国の仏像を研究している先生がいたり、その隣では「保存科学」といって文化遺産の修復をやっている先生がいたりして、1人1人全然違うのね。
そうすると、もし学生さんが中国の遺産について研究したいと思ったときには、仏像のことは仏教の先生に聞いて、壊れている部分については保存科学の先生から学んで、その仏像がどんな山に彫られていてどんな環境下にあるのかという部分は私がサポートして、という風に、1つのテーマについて色々な角度から掘り下げていける楽しさがあるの。
一見繋がっていないように見える学びが、最後にちゃんと繋がっていく感じが、面白いんじゃないかな。
白川郷・五箇山も、石見銀山も、富岡製糸場も、とても有名な世界遺産地区ですね。そんな場所で学生のうちから活動ができるというのは、それだけでとても特別なことだと感じます。
具体的にはどんな研究を行なっているんですか?
石見銀山と富岡製糸場では、学生が地域の子どもたちに世界遺産について教えるプログラムを行なっています。これがとても面白くて。
世界遺産地区で生まれ育った子どもたちは、自分が住んでいる地域のことや遺産のことはしっかり学んでいるけれど、「そもそも 世界遺産ってなに?」「世界中には他にどんな遺産があって、どういう風に守っているんだろう?」という点については、学ぶ機会が少ないということを知って、この取り組みを始めたんです。
そうなんですよね。せっかく世界遺産地区に住んでいるのに、世界遺産について考える機会が少ないのはちょっと勿体無いなと感じて。
それで、試しに研究室の学生たちに地域の子どもたちに向けた「世界遺産とは」という授業をしてもらったの。そしたら、子どもたちがものすごく盛り上がったんだよね。
教える学生側もとっても生き生きしてて、紙芝居を作ったりと色々工夫を凝らしてくれて。授業を終えた時には、感動して涙を流している学生もいたの。
そんな姿を見たら、なんだか私までとても胸が熱くなってしまって。
こういう風に、実際に手足を動かして「誰かのために自分の学びを役立てる」という経験をもっと積んでもらいたいなと思ったし、座学での研究だけでは得られない、自分の心に強く心に残るような学びを、体験してほしいなと思ったんです。
素敵ですね。黒田先生の研究室では、普通に学生生活を送っていては体験できないような出会いや、キャンパスの中にいるだけでは想像できない景色を見せてもらえるところが、魅力だと感じます。
大学院での学びって、もっと研究室や図書館に引きこもって資料とにらめっこしながら進めるようなイメージがあったので。
長く活動を続けていくうちに、先進的な取り組みをしている地元企業さんと一緒に活動させてもらえるようになったり、自分の生まれ育った土地を心から愛して、熱く活動されている方のお話を聞かせてもらえたり、面白い挑戦をしている移住者の方と一緒に活動ができたりするのも、楽しくて。
学生にとっても、講義を聞いたり本を読んだりして一方的に受け取る情報より、こうやって人と人とのリアルな対話を通して聞かせてもらう温度感のある言葉の方が、深い学びに繋がると思っているんです。
黒田先生の教え子の中には、いま実際に白川村に移住して働いている方もいますね。
ただの研究フィールドとしての関わり方だけでなく、その後も自分の貴重な人生の時間を使って白川村に関わってくれている若者が、先生の研究室から2人も誕生しているというのは、とても大きな出来事だと感じます。
学生の人生が大きく変わるようなきっかけを作ってしまう黒田研究室のパワー、おそるべし!
第1回目は、筑波大学大学院 人間総合科学研究科 世界遺産専攻 黒田研究室の、黒田乃生教授にお話を伺います。